新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、手指などを清潔に保つためのアルコール消毒液が人気を集めています。
これらを購入する時に理解しておくと便利なのが、「殺菌」「消毒」などの用語です。
殺菌と消毒はどちらも「菌の除去」を指す言葉のように思えますが、実はそれぞれに異なった定義があるんです!
無毒化、死滅など菌に対する効果を表しているケースもあるので、使用用途に合わせた製品選びにも活用できます。
今回は「殺菌」「消毒」の違いに加え、菌の除去に関する用語や、製品を選ぶために覚えておきたい各表記の基準もご紹介します。
殺菌と消毒の違いは?
大きな違いは、
- 殺菌=菌の死滅
- 消毒≠菌の死滅
ということです。
つまり、消毒という言葉が使われている商品については、体に悪影響を及ぼさないようにするための手段が「菌を殺す」こととは限らないということです。
ここから下では消毒と殺菌について、詳細に説明します。
「殺菌」とは?
文字通り菌を殺すことを指します。
細菌を死滅させることで、その機能を失わせるものですね。
注意すべきポイントも
「殺菌」という用語は、殺す菌の対象や殺した程度(数)について明確に決められているものではありません。
たとえば、「新型コロナウイルスだけを殺す性質を持つ」製品Aと「新型コロナウイルス、ノロウイルス、インフルエンザウイルスを殺す性質を持つ」製品Bはどちらも「殺菌」という言葉を使えます。
また、「新型コロナウイルスを7割殺せる性質を持つ」製品Cと「新型コロナウイルスを1%しか殺せない」製品Dも、同じ「殺菌」ができる製品と言えます。
一部を殺しただけでも殺菌を謳えてしまうことから、厳密にはこの用語を使う場合は、有効性を保証したものではない、とも言えるのです。
「消毒」とは?
こちらは菌を無毒化することを指します。
菌を殺して減らすだけでなく、菌の持つ感染力を失わせて毒性を無力化することも「消毒」に含みます。
殺菌は消毒の手段の一部
また、「殺菌」とは異なり、「消毒」には「菌を身体に害のない程度まで減らす」という基準があります。
つまり、「殺菌」は「消毒」の手段の一部です。
「殺菌」と「消毒」が使い分けられているのは、菌の病原性を消すための方法が菌を殺すこと以外にもあるからなのです。
「殺菌」「消毒」を使用できない製品がある?
「殺菌」「消毒」の定義に該当する機能を持つ製品でも、これらの言葉を使用できないケースがあります。
それは、商品が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法という)」において定められる「医薬品」「医薬部外品」に該当していない場合です。
医薬品
- 予防や治療を目的とした薬
- 有効成分の効果が認められている
- 病院で医師が処方してくれる医療用医薬品、風邪薬や点眼薬などの市販医薬品が該当
医薬部外品
- 効果・効能の認められた有効成分が含まれている
- 薬ではなく人の体に対する作用が穏やかなもの
- 日常的な不快感の緩和を目的とする育毛剤、入浴剤などが該当する
- 従来の効能に殺菌や消毒効果を強めた「薬用化粧品」も該当
「医薬品」「医薬部外品」のいずれかに該当し、なおかつ「殺菌」か「消毒」の定義に当てはまっていれば、商品PRなどで使用していい言葉となります。
定義の決め方が製品によって異なる場合も?
「殺菌」「消毒」のような薬機法などの用語は、法律に基づいて厚生労働省が文言の表示などを規制しています。
また、「除菌」のような分野によっては法律上の定義がない言葉については、それぞれの製品の業界団体が表示の自主基準を定めています。
同じ「除菌」でも…
「除菌」を謳う製品の多い洗剤・石けん業界と家電業界の定義を例に比較してみましょう。
- 洗剤・石けん公正取引協議会が定義する「除菌」
→物理的、化学的または生物学的作用などにより、対象物から増殖可能な細菌の数(生菌数)を、有効数減少させること - 全国家庭電気製品公正取引協議会が定義する「除菌」
→ある物質又は限られた空間より微生物を除去すること
対象や減少数、菌の除去方法について、業界によって定義に差異があることがよく分かります。
商品の信頼性を判断する際の材料のひとつになるかもしれませんね。
「殺菌」「消毒」以外の用語もチェック
ここからは、上で詳しく紹介した「殺菌」「消毒」以外の言葉について意味を確認していきましょう。
- 滅菌
- 抗菌
- 除菌
それぞれの言葉には、どのような違いがあるのでしょうか?
「滅菌」とは?
菌を完全に殺すことを指します。
この言葉は薬機法に基づいて定められた医薬品の規格基準書「日本薬局方」によって、
「微生物の生存する確率が 100万分の1以下になること」と定義されています。
医療器具などに適用されやすい言葉ですが、日頃の生活でも絆創膏のような衛生用品のパッケージで見かけますね。
「除菌」とは?
物質や空間などの対象物から菌を除いて数を減らすことを指します。
食品衛生法では「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去すること」とされています。
しかし、清潔志向の人が増えたことにより、食品以外にもこの性能を訴求する商品が多く登場するようになりました。
除菌の方法や程度の範囲などについては上記の比較のように各分野でさまざまな意味づけをされています。
「抗菌」とは?
菌の増殖を抑制することを指します。
1980年代から工業製品の抗菌加工がブームになったことを受けて、当時の通商産業省(現在の経済産業省)が「抗菌加工製品における抗菌とは、当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること」とガイドラインで定義しました。
抗菌製品については、日本標準規格(JIS規格)において試験方法を規定されています。
なお、除菌と同じく対象や程度は問いません。
菌に関する用語は奥深い!
どれも同じように見える用語ですが、様々な基準に基づいた定義づけによって明確が違いがあることがわかりました。
整理してみよう
ここまで登場した用語をかんたんにまとめなおすと、以下のようになります。
用語 | 定義 |
---|---|
滅菌 | 菌を完全に死滅させること |
殺菌 | 菌の全部または一部を殺すこと |
消毒 | 病原性のある菌を無毒化すること(方法を問わない) |
除菌 | 物質または空間から菌を減少させること |
抗菌 | 微生物の増殖を抑制すること |
並べてみると、上3つ「滅菌」「殺菌」「消毒」は菌類を「無くす」あるいは「機能を止める」こと、
下2つ「除菌」「抗菌」に関しては菌類を「減らす」ことを重視した言葉だということが分かりますね。
つまり、以下のように言えます。
- 「滅菌、殺菌、消毒」は菌による病気の予防や治療などを目的としている
- 「除菌,抗菌」は清掃・清浄を目的としている
ですので、カンタンなめやすとして「滅菌、殺菌、消毒」という表記があれば薬機法上の承認を得ているはずと考えることができるかと思います。
用語を理解して日常生活につなげよう
「殺菌」「消毒」などをPRする商品は、今もなお市場に続々と登場しています。
その背景は、アルコール消毒や石けんなど、菌の除去を謳う商品の急激な需要増。
自分にとって本当に必要なものかどうかを確かめるために、表示の確認は効果的ですね。
言葉の意味を理解して、商品選びをスムーズに進めましょう。