自動車産業を始め、日本のモノづくりは長年世界を牽引し続けてきました。
その中で多くの素晴らしい新技術が生まれ、私たちの暮らしを支えてくれています。
しかし、今の日本は労働者人口の減少や他産業へ就職する若者が増え、人手不足に悩む製造業の方も多くいます。
そうした状況の中では、生産性を向上させることは欠かせません。
今回は工場の生産性を向上させるための具体策を5つご紹介します。
生産性を向上させることで得られる4つのメリット
生産性向上の具体策をご紹介する前に、なぜ生産性を向上させることが重要なのでしょうか?
まずは、生産性を向上させることで得られるメリットを4つご紹介します。
コストを削減できる
1つ目のメリットとして、コストの削減が挙げられます。
工場を稼働させているだけで、人件費・電気代・水道代・燃料費など、様々なランニングコストがかかってきます。
生産性を向上させることで、稼働時間を短縮させたり、人員を削減できるためランニングコストを抑えることができます。
例えば、1日30分の短縮でも月20日の稼働と考えると月10時間の削減となります。
小さな積み重ねでも長い目で見ると、大きなコストカットが実現できます。
生産数を上げ、利益を拡大できる
2つ目のメリットとして、製造している製品の生産数が向上し、販売数が増えることで利益を拡大できます。
生産性が向上すると、従来と同じ稼働時間でも生産できる製品の数を増やすことができるので、今までは生産量が追いつかず販売量が伸び悩んでいた商品の販売数を伸ばすことができます。
さらに、新たな販路を拡大できたり、取引先への出荷数を増加させた契約ができるなど、生産数が少なくて逃していたチャンスを掴むことができるかもしれません。
品質を一定に保つことができる
3つ目のメリットは、製品の品質を担保できるようになることです。
生産性向上の取り組みの中で、作業を平準化して従業員の技能による品質のバラつきが低下でき、結果として製品の品質担保に繋がります。
不良品を出荷してしまえばお客様の信頼が一瞬で崩れてしまい、取引停止や出荷停止など会社の存続に関わるほど大きな問題に発展する可能性が大いにあります。
出荷しなかったとしても不良品を発生させることで余計なコストがかかってしまうので、不良品を作らないことはとても大切です。
生産性を向上させて品質を一定に保つことで、お客様からの信頼やブランド力アップにも繋げることができます。
従業員のストレス低下・モチベーションアップに繋がる
4つ目のメリットとして、現場で働く従業員のストレスを低下させ、モチベーションアップに繋げることができます。
生産性の悪い現場では、いつも従業員がなんらかの作業に追われ、忙しそうにあちこちを奔走している姿があります。
また、生産性の悪い工場では設備の稼働率も低く、オペレーターは標準作業以外にも保全業務に追われるなど、本来業務以外の業務も発生し、従業員の負担も大きいです。
そうした環境で働いていると従業員は大きなストレスを抱え、仕事に対するモチベーションも低下してしまいます。
生産性を向上させることで、従業員が本来業務に集中できる時間が増え、負担を軽減することでストレスを低下できたり、残業時間が減り仕事に対するモチベーションアップに繋がったりと大きなメリットがあります。
生産性を向上させる5つの具体策
生産性向上のメリットをご紹介したので、ここからはどのようにしたら生産性を向上させることができるのか、5つの具体策を紹介します。
標準作業手順書作成による作業平準化
標準作業手順書とは、現場作業員が実際に作業をする際の具体的な作業手順や、一連の動きの流れを指示するための手順書になります。
これは、誰がその作業をしても同じ時間で同じ品質の製品を作ることができるようにするために作られます。
例えば、Aさんは45秒でできていた仕事をBさんにお願いしたら60秒かかってしまったとします。
このような状況で、BさんはAさんと比較すると15秒も時間がかかってしまっているのでこれでは生産性が悪くなってしまいます。
BさんもAさんと全く同じように作業できれば45秒で仕事ができるので生産性は落ちません。
このような状態にするために標準作業手順書は必要になってきます。
また、標準作業手順書を作成するうえで、まずは現状の作業をしっかりと観察することが大切です。
無駄な動きがないか、短縮できる作業はないかという視点を持って最も効率の良い状態を手順書として定めておくことで生産性を向上できます。
標準作業手順書を作成する際の注意点として、作業員の一挙手一投足まで細かく指示を出すことが必要です。
「A地点〜B地点まで〇〇歩」「右手で起動ボタンを押す」など、誰が作業しても同じように再現できることが大切なので、完成したら複数人に実践してもらい、検証してみましょう。
サイクルタイムの改善
設備が1つの製品を製造、または1つの工程を完了させるまでにかかる時間をサイクルタイムと呼びます。
マシン1つ1つの動きをしっかりと観察し、動きや動線に無駄がないか、時間を短縮できる工程がないかなど、じっくりと検討してサイクルタイムを短縮させることで生産数を増やすことができます。
例えば、シリンダの動作端で確認を取っていたチャックを、圧力が一定以下になったらアンチャック動作確認をするように改善すれば、シリンダが動作端まで動く前に次工程へ搬送できるようになり、数秒サイクルタイムを短縮できます。
サイクルタイムがたったの1秒でも短縮できれば、日当たり・月当たりの生産数は大きく増やすことができるかもしれません。
設備の4Sを徹底
製造現場では、「整理」「整頓」「清潔」「清掃」の4Sが重要です。
しかし、4Sが大切だと言われていても本来業務に追われたり、なぜ重要なのかを理解できずになかなか定着しない現場や従業員がいるのも事実です。
生産性向上の観点で4Sの重要性を説明すると、まず設備稼働率が上がります。
設備停止の要因は様々ですが、大元を辿ればしっかり4S ができていれば防げた故障も多くあると思います。
可動部にバリが堆積して繰り返し動き続けることで部品が故障するなど直接不具合を起こすこともあれば、汚れのせいで水漏れに気付かず電気設備に侵入して短絡を起こすなど間接的に不具合を起こしてしまうこともあります。
正常な稼働を保つためにも設備内外問わず周囲を清潔に保つことは大切です。
4Sが徹底されている現場は設備稼働率も良く、生産性も高いです。
職場単位で4Sのルールを定め、4Sが行き届いた状態で設備を稼働させましょう。
また、あなたが部下や後輩を持つ立場なら、なぜ4Sが重要なのかしっかりと伝え、理解して実践してもらえるように努めましょう。
設備標準管理票作成による日常保全実施
設備標準管理表とは、設備が正常に稼働できる状態を管理するための保全項目をまとめた管理票になります。
1つ1つの設備に設備標準管理票を定め、それに基づき日常保全を実施して設備に異常が無いか常に管理することで、設備の稼働率が向上して生産性向上に繋がります。
この設備標準管理票を作成することで、設備の正常状態がどういうものなのか改めて認識し、いち早くいつもと違う状態に気付くことができます。
設備が故障するときは、何らかの予兆がありそれに気付かず稼働を続けた結果大きな故障に繋がってしまったという事例も多くあります。
「空気圧は正常か?」「動作速度は範囲内か?」「電圧は基準内か?」など、設備が正常な状態を管理し、大きな故障に繋がる前に手を打ちましょう。
自動化・省人化を推進
こちらは設備への投資が必要になってくるケースもありますが、生産性向上を目指すならば一番効果を上げられる可能性があります。
今まで人の手で行っていた作業を機械に任せることで、人件費を削減することに繋がるだけでなく、作業効率を上げることにも繋がり、生産性も向上します。
人に任せる以上、ミスやイレギュラーは必ず起こります。
機械でも不具合を起こす可能性はありますが、それらを極力抑えることができるので、生産性を上げることに繋がります。
また、省人化して単純作業を機械に任せた分、その工程で作業をしていた従業員を他の業務に配置させることで、今まで手が回らなかった業務にも取り掛かることができるため、さらなる生産性を目指せるでしょう。
生産性を向上させる上で大切な考え方
これまで生産性を向上させることのメリットや具体策をご紹介してきました。
しかし、置かれている状況は人それぞれ。
今のあなたの状況に合わせた方法で生産性を向上させるためには、次のような大切な考え方があります。
改善後は改善前
あなたはある改善を実施したあと、それに満足してしまったことはありませんか?
もちろん、素晴らしい効果のある改善をしたあとは今がベストな状態だと思ってしまう気持ちはわかります。
しかし、改善に終わりはありません。
「改善後は改善前」という言葉には、改善に終わりはないという意味が込められています。
素晴らしい改善を実施しても、さらに改善できることはないかという意識を持って、常に改善をやめないことが大切です。
技能研鑽を惜しまない
生産性を向上させるためには、従業員の技能を習熟させることも大切です。
効率が上がり、作業が単純になって特別な技術を必要としなくなったからといって、技術を磨かなければ新たな改善は生まれません。
技能を向上させることで今まで対応できなかったトラブルに対応できたり、新たな問題点や改善点に気付くことができるようになります。
技能育成の制度を見直してみるなどして、個人単位だけでなく組織的に取り組むことで技能育成の文化を築きましょう。
小さな改善が大きな効果を生む
いざ、何か改善に取り組もうとすると大きな効果を期待して、規模の大きな改善活動に目を向けてしまいがちです。
しかし、規模の大きな改善に取り組もうとする場合、その分たくさんのリソースが必要になります。
そして、その改善に目を向けるあまり目の前にある小さな改善のタネを見落としてしまうこともあります。
「塵も積もれば山になる」と言いますが、1分1秒の改善だったとしても長い目で見れば大きな効果を生むことができます。
今すぐ取り組めそうな小さな改善も、甘く見ることなく着実に進めていきましょう。
生産性向上に取り組む際の注意点
生産性向上するための活動に取り組む際には、いくつか注意すべき点もあります。
注意点を理解してから取り組むことにしましょう。
費用対効果を考慮する
生産性向上に取り組むことで、多くのメリットをあげることが期待できますが、ある程度の投資も必要になる場合があります。
大きな金額を投資したにも関わらず、それほど効果を生むことができなければせっかくの投資を無駄にしてしまう可能性もあります。
じっくりと検討を重ねてから判断するようにしましょう。
発生するデメリットが無いか検討する
改善をすることで得られるメリットもありますが、反対にデメリットも生まれる可能性があります。
改善を施す際は、どんな良いことがあるかメリットに目を向けがちで、それにより発生しそうな問題を検討することを忘れてしまうこともあります。
改善したことで作業しづらくなり、逆に効率が悪くなってしまったり、安全性が低下して災害のリスクが上がったりなど、どんなデメリットが発生するかも検討する必要があります。
小さな取り組みから始めて生産性を向上させましょう
生産性を向上させることは、競争力が増しているこの時代において生き残るためにも必須の取り組みになります。
小さな取り組みや、決められたルールを当たり前に守ることでも今よりも生産性を向上できるかもしれません。
今回ご紹介した具体策を自職場に置き換えて考え、改善活動に取り組んで生産性向上を実現させましょう。